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開発メインストーリー

GRプロジェクトで問われたエンジニアの真価

トヨタ自動車の新たなスポーツカーブランド「GR」。
その第1弾モデルとなる「GR Vitz」の
フロントバンパーの
設計・開発を担ったのが、トラスト・テックのボデー設計部です。
製品にするのが生産技術的に難しいと言われた
斬新なデザインを
一丸となって
どのように設計に落とし込んだのか、
その取り組みについてお話を伺いました。

PROJECT MEMBER

久 保 興 介
KUBO KOUSUKE
TOYOTA自動車(株)
GAZOO Racing Company
GRデザイングループ主幹 外形デザイン担当

1992年にトヨタ自動車入社。MAJESTA、ALTEZZA BREVIS、PRIUSα 86 SAIなどの外形デザインを 担当。現在は、GRブランド車両の外形デザインを 担当している。

落 合 章 寛
OCHIAI AKIHIRO
(株)トラスト・テック
ボデー設計部
マネージャー

車の設計に携わった経験と実績から、弊社外装設計 委託を統括。コンマミリ単位にも妥協を許さない 開発・設計には定評がある。

お客様や時代が求める
新しい車の魅力が伝わる
デザインを

お客様や時代が求める
新しい車の魅力が伝わるデザインを

今回のプロジェクトでデザインをご担当なさったということですが、久保さんが「GR Vitz」をデザインする上で最も大切にされたことは何でしょうか。

久保:GRは、レースの現場で培われた技術を基に、より多くの方に「車で走る楽しさ」「ワクワク、ドキドキ」を感じていただくことを追求するスポーツカーブランドです。そのため、レスポンスの良さや、意のままに操る楽しさに重視しています。走行性能である車の戦闘力を最大限に発揮するためにはどのような造形がいいかを検証しながらデザインを考え、意匠と機能の両立を目指しました。

私がデザインをする上で、最も大切にしていることは、どういう人がこの車に乗るか、ということです。想像力を働かせて、その車に乗る人のキャラクターや使用シーンに思いを馳せてデザインをアウトプットしています。工業デザインというのは、いくら独創的なデザインを考えたとしても独りよがりのものでは絶対にダメだと思います。お客様や時代が求める、車の新たな魅力が提案できるデザインでなければ成り立たないと考えています。

今回のプロジェクトの中で、トラスト・テックはどのような任務を担ったのでしょうか。

久保:トラスト・テックの設計チームには、フロントバンパーの設計をお願いしました。

今回の「GR Vitz」の設計・開発は、標準車をベースにG’sシリーズより、さらに磨きをかけたブランドとしての試みでしたので非常に苦労しました。特に、GRブランドの立ち上げとなる第1弾モデルということもあり、スケジュール的にも生産技術的にも本当に厳しいプロジェクトでした。

フロントバンパーのデザインは、
メッセージ性が強くなければ、
成立しない

フロントバンパーのデザインは、
メッセージ性が強くなければ、成立しない

どのような点がスケジュール的、物理的に厳しかったのでしょうか。

久保:標準車をベースに開発するといっても、フロントバンパーは車の顔の印象を決める、大切な部分です。そのため、GR ブランドのコンセプトを表現するデザインに再構築することにしました。

第1弾モデルは、GRブランドの象徴となり、その後のモデルのデザインにも大きく影響するものです。だからこそ、「GR Vitz」のフロントバンパーは走りに特化したアイコンでなければいけないし、メッセージ性も強くなければいけません。このような車の象徴的な部分の設計・開発には、通常でしたらそれなりに時間がかかるものですが、期間が非常に短いプロジェクトでしたので発売までに間に合わせるのに苦労しました。

今回、トラスト・テックの皆さんに依頼して良かったことは、当社から依頼したデザインの意図を自発的に理解しようとコミュニケーションを密にとっていただいたことです。このような積極的な姿勢が、短期間でのプロジェクトの成功につながったと考えています。

具体的には、トラスト・テックのどのような姿勢が積極的だったのでしょうか。

久保:走行性能や冷却性能、燃費などを追求しようとすると量産車両としての条件をクリアできない部分が出てきます。

エンジニアの皆さんは、設計のプロなので、もちろん設計のことは熟知していますが、製品を開発する上では、デザイン画や言葉だけではなかなか伝わらない部分があります。そのような場合には、デザインを担当する立場として、なぜ私がこのデザインにしたいと言っているのか、なぜこの形状にこだわっているのかなどを理解するために、何度も足を運んで私たちが作ったデザインモックを見に来てくださいました。フットワークが非常に軽かったですね。

顔を合わせて話をすることでデザイン画や図面だけでは伝えきれない、デザインの裏側にある意図を理解していただいたと思います。通常なら1しか伝わらないところを10理解してもらえたという感じです。

理想のデザインを徹底的に追求する。
諦めず前向きな姿勢に、
私たちも助けられた

理想のデザインを徹底的に追求する。
諦めず前向きな姿勢に、私たちも助けられた

今回のプロジェクトで特に苦労した点は?また、その困難をどのように乗り越えましたか?

久保:今回のモデルでは、冷却性能、走行性能を追求するためデザインにもあらゆる工夫を凝らしています。例えば、バンパーのサイド下端部は走行性能向上のため、標準車よりオーバーハングが短くなっています。このデザインを金型に落とし込んだ際に、バンパーの剛性が高く金型から部品が外れないという問題が発生し、このままの形状では生産が難しいということが分かりました。

ものづくりの現場においては、このような開発の壁にぶつかる場面が必ずあります。トラスト・テックの設計チームは、壁にぶつかった時に、ただ条件を妥協して折り合いをつけるのではなく、どのような方法ならば本来デザインが目指したところに近づけることができるのか、限られたスケジュールの中で諦めずに徹底的に試行錯誤してくれました。

具体的には、ホイールアーチ内のフランジを短くし、あえて剛性を落とすことで金型から製品が外れるようにしました。一方で、形状の変更をしたことで組み立ての際に隙間ができてしまうことが判明し、この問題については、別の部品を作り隙間を防ぐことで製品の品質をカバーするというトラスト・テックの提案で解決することができました。最終的にはデザイン性と機能性を両立させた製品となりました。

トラスト・テックに依頼したからこそ、「達成できた」「クリアできた」という点はありますか?

久保:1台の車を開発するためには、エンジニアをはじめ、金型の職人さんなど、社内外を含めた非常に多くのスタッフが関わっています。理想のデザインを形にするために、金型屋さんをはじめとした関係各所に積極的に働きかけて調整してくれたのは、トラスト・テックの皆さんです。今回のプロジェクトは、トラスト・テックの設計力と調整力がなければ、理想とするデザインをここまで形にすることは難しかったと思います。開発プロジェクト全体としても、彼らにはとても助けられたと思っています。

格好良さだけじゃない。
条件をクリアして初めて
世の中に出せる。
それが、エンジニアの使命

格好良さだけじゃない。
条件をクリアして初めて世の中に出せる。
それが、エンジニアの使命

GRブランドの第1弾モデルということでトヨタ自動車から上がってきたデザインを具現化するために難しかった点は?

落合:設計者として、デザイナーが描いたものを形にするということが第一目標ではありますが、新しいモデルを発売するにあたって現実的には、納期をはじめ、金型を作るための成形要件、さらには法律を遵守するための法規要件などのいろいろな要件を満たして初めて世の中に出すことができます。

特に、自分たちが担当したフロントバンパーは、その車の第一印象を決めてしまう重要な部分です。デザインの意図を理解しつつ、出来ないことは出来ないと伝えることや、関係部門と折り合いをつけていくことも自分たちの重要な役割だと考えています。ただし、単にできないと跳ねのけてしまうのではなく、「このようにすれば実現できますよ」と提案を付け加えることが大切だと考えています。

今回のプロジェクトは、造形的にも、スケジュール的にも非常に難しいものだったと伺っていますが、どのような点が難しかったのでしょうか。

落合:最近の車の開発プロジェクトでは「いかに設計・開発のスピードを短縮できるか」「いかに開発コストを抑えられるか」ということが重視されています。机上の計算と経験値で、設計段階で起こりうる問題を想定し進めることにより、3D形状にした際の、図面と現物のギャップを埋めていきます。残念なことに現実的には想定どおりに進まず、微調整として設計変更をすることが余儀なくされます。ですから、いかに変更をなくすかが設計の大きな課題でした。

設計変更を極力少なくすることは、スケジュールが短縮できることに加えて、開発コストを削減することができます。ここはエンジニアの力量が大きく問われる部分です。

チーム一丸となった取り組みが
理想のデザインを形にする

チーム一丸となった取り組みが
理想のデザインを形にする

今回のような非常に厳しいプロジェクトをどのように乗りきったのでしょうか。

落合:僕たちのプロジェクトチームは、幸い様々な経験をしてきたレベルの高いバランスのとれたチームだったので、設計において何か課題が上がった際には、メンバーそれぞれの知見を共有し話し合いながら、どうしたら理想のデザインを実現できるのか、チーム一丸となって取り組みました。

トラスト・テックの設計チームでは、設計の最初の段階から「誤差のない設計ができるよう」「狙った形ができるよう」ミリ単位での調整を行っています。以前、車の内装設計に携わっていたのですが、内装設計ではコンマミリ単位の微細な設計が求められていたため、僕自身のこの経験が非常に役に立ちました。

これに加えて現物が完成した段階で、もしバラつきが出た場合、「金型のどこをチューニングしたら良いか」を最初の段階から織り込んで設計するよう工夫しています。このようなプロジェクト全体を見通した対応で、短期間かつコストを抑えた設計を実現できたと思います。

目指しているのは、
エンジニア集団としての
技術力の底上げ

目指しているのは、
エンジニア集団としての技術力の底上げ

ものづくりの現場で求められるエンジニアの資質とは?

落合:エンジニアは、コミュニケーションが苦手だと良く言われますが、より良いものづくりをするためには、お客様だけではなく、金型屋さんをはじめ、関係各所を巻き込み、課題を解決する力が求められます。それを実現するためには、コミュニケーション力が不可欠だと思います。

今回のプロジェクトでは、フロントバンパーの外装部品という、非常に責任の重い業務をトラスト・テックとして初めてご依頼いただいたため、僕自身も正直なところ分からないことだらけでした。「何が望まれているか」を正しく理解できなければ、設計としても迷子になってしまいます。

そのため「知ったかぶりしても仕方がない」「素直に聞きに行こう」と考えて、デザイナーである久保さんをはじめ、関係者の皆さんに率直に相談に行きました。今回の仕事は開発委託として受けていますが、委託元であるトヨタ自動車様との距離が近く、幸いにも相談しやすい環境だったので、その点には非常に感謝しています。

これからのエンジニアにもう1つ求められるのが、フットワークの軽さです。今回のプロジェクトでは、僕たち設計チームが「作れる」と言っても、金型屋さんが「できない」と言えば、久保さんが意図していたデザインを実現することはできません。

もちろん、メールや電話でも要件を伝えることはできますが、どのようにしたら実現できるのかを実際に顔を合わせて話し合うことで、自分だけでは思いつかなかった別の解決方法が見つかったり、ブレークスルーのきっかけにつながったりすることがよくあります。

最後に、今後の目標を教えてください。

   トラスト・テック全体としては、エンジニア集団の会社として技術力全体の底上げを目指しています。今回、GRの外装設計に関われたことは、僕たちプロジェクトメンバーにとっても、会社としても技術力底上げに絶好のチャンスをいただいたと思っています。今後も多くの経験を積み上げて、僕自身も、組織としても車の外装設計に関わる技術を極めていきたいと思います。

PROJECT STORY

今、現場のエンジニアに
求められること
GRプロジェクトで問われた
エンジニアの真価
その時、エンジニアは
どう壁を乗り越えたのか